【読書録】ドラッグと分断社会アメリカ

人は薬物使用してもその8-9割は依存症にならない。ただ普通に使っており薬物使用そのものからの悪影響を受けていないはずの人が、逮捕されると逮捕歴が理由でよりその後の人生が不利になる、という趣旨の問題提起がなされている本でした。

自分自身は気を付けないといろんなものに対して依存症になるリスクがあると自覚しているので、8-9割が大丈夫でも心配なので禁止措置が弱まってほしいとは思わない。が、改善案として提案されている以下の案自体は薬物対策のメインストリームでも議論されつつある「罰則から治療へ」の政策にも近く一考の余地があると思う。

  • 売買は犯罪、従来通り厳罰に処す
  • ただし、自己消費分を少量持ったり使ったりしているだけであれば交通違反切符程度の措置しか与えない
  • 自己使用発見の最初の措置の段階で、依存症にならないような支援グループにつなぐ


薬物に対する厳罰対応の被害を拡大解釈している部分は見られるのと、普通に薬物のせいでは?という登場人物とか、関係ないように感じる話も出てくるなどツッコミどころもある本書ではある。
だがそれでも、実際の研究社として科学的見地を踏まえたうえで現在の行き過ぎた薬物禁止の政策問題を取り上げ、その具体的な弊害について自分の出生と交えて説得力もって話すことができると言うのは稀有な才能と立場から出て来たものであり、問題提起としては意義深いと感じた。

 

他、本書で紹介していた事実のうち興味深い内容をいくつか紹介しておきます。

  • 家族を持つとコカインをやめる可能性が3倍に高まる。
  • 社会的接触、快適な生活環境といった、「代替の強化刺激」がモルヒネ依存を防ぐ
  • 人が依存症になる原因はヘロインやコカインではない。原因は、過酷な現実から逃避しなくてはならないことにある。
  • コカインが集中力注意力を向上させうることが確かに示されている。
  • 薬物の使用率は社会階級であまり差がないが、依存症の多さは階級差がある。