【ネタバレあり】「推し、燃ゆ」を読んだ

「推しを推している人たち」の心理に関心があった。


自分はスマホ依存を自覚しているが、多分世の中では軽い方だと思う。スマホ依存ではないと思ってる人の中にも自分よりもスクリーンタイムが多い人が沢山いるはずだし、知り合いの1人もそうだった。
それでも自分に「スマホ依存」のラベルをつけているのは、依存的に何かにはまる状態が苦手で不快と言ってもいいぐらいだからだ。
その時その時に楽しみがあったとしても、自分のコントロールできる範囲を超えて自分のエネルギーや時間を侵食してくる対象は自分にとっては脅威なのだ。


スマホ依存症を脱却したい、自分がコントロールできる以上に情報を摂取してしまうのをやめたい、という思いを持った時に、関心を持った対象の1つが「推し」がいる人たちだった。


自分にとってのスマホ(およびその他の趣味全般)などより遥かに高いエネルギーで「推し」にハマっている人たちをネットで良く目にする。アイドル、二次元、2.5次元。。。彼ら、しんどくなったりしないのか?しんどいので「推し事」をやめるという決意を持った人はいないだろうか? そうして時々その人たちの熱気あるブログを読ませていただいたりしていたが、そこまで解像度が高く彼らの心理がわかることはなかった。


このような関心があったので、「推し、燃ゆ」の存在を知って俄然読みたくなり、読んだ。

 

 

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 

 


***ここからネタバレ****

 

 


「全身全霊で打ち込めることが、あたしにもあるという事実を推しが教えてくれた。」


主人公「あかり」の世の中の捉え方は自分と逆なのかもしれないなと思った。
自分にとって、没頭してしまうようなコンテンツは自分のコントロール外まで侵食してくる脅威だけど、
あかりにとっては、「推し」への関わりだけが、自分の関わり方を自分の望むようにコントロールできる対象だった。
「あかり」は生活も勉強も家庭も何もままならない生活を送っている。そんな中、「推し」に対してであれば、自分が本気になれるし、エネルギーを出せる。(「推し」に関するブログ執筆を通した人間関係も得られているが、ここはあくまで彼女にとってはサブで、メインの心の支えはあくまで「推しを推せていること」なのかなと思う)

 

 

 

 


しかし、物語後半には、コントロールできる対象だったはずの「推しを推すこと」が、炎上をきっかけとして、結婚と芸能活動の引退により、コントロール範囲外になってしまう、そして彼女の現実に抱えている生活もより行き詰まっていく。 


エネルギーを功利的な対象(金になるとか心身の健康にいいとか)を選んで注ぎ込める人ばかりとは限らない。


自分はエネルギーの総量は少ない方だと自覚しているけれど、それで悔しい思いをすることもあるけれど、その分注ぎ込む対象を厳選している。いや、自分の意思である程度厳選することができる。
他人に話す分にはネタができにくい、つまらない人間である。でも、そこがつまらないおかげで人生行き詰まりづらいし、自分としては大変穏やかで楽しく過ごせている。それは、幸運なことだった。

 

 

 


物語の最後、彼女なりに「推し」を推すことができなくなった事実をこの目で確認し、推しへの想いにケリをつけて、今のままならない生活を少しずつ改善しようとしていくのかなという希望と救いを感じた。
自分だったら、コントロールの効かないのものがひとつ消えて注ぐ先のないエネルギーが残ったら、功利的なものにここぞとばかりに時間と活力を使うと思う。日々の生活の改善は間違いなく功利的なものの1つだ。
「推しを推すこと」が唯一のコントロール対象だった彼女がそうするとは限らない。限らないんだけど、気持ちをぶつける対象をあえて綿棒にして、そこから綿棒だけでなく色々なものを拾おうとする描写からは、その1歩を確かに感じ取れた。