私はこれまでSFをあまり読んでこなかったが、本作品にはとても引きこまれた。ハマったあまり、本に続いてコミックも買って、1週間ぐらいそれに付随するテーマについて考えを巡らせてしまった。よって書きたいテーマだけで2つか3つあるが、今日はそのうちの一つだ。
「健康管理型社会」は不幸なのか
酒もタバコもカフェインも禁止されている。食事内容は常に拡張現実で栄養価をチェックできるし、自分の体組成に会うようなパターンをコーディネートしてくれる専門家もいる。体内に入れられる健康モニタリングデバイス“WatchMe”が健康状態を常に確認してくれて、病気が見つかれば即座に家にあるデバイスでその病気に適した薬を自動で合成・調合してくれるから、治療も即座に終えられるのだ。
これが、Harmonyが描く近未来の日本の世界観だ。そして、主人公の友人でありカリスマである女子高生“御冷ミァハ”はその社会を批判し主人公“霧慧トァン”も感化されていく。
この高度な健康管理システムのネガティブな扱いを目にして驚いた。というのも、それは私が今喜んで金を払って手に入れいるものの延長線上だからだ。
Apple Watchが活動量を測ってくれており、座りっぱなしだと「一度立ち上がりましょう」と推奨してくる。目標活動量の達成を毎日促される。夕方の疲れてきた頃にはマインドフルネス(呼吸)のアプリが開く。睡眠は量と質をモニターされて、十分かを判定してくれる。
まだそんなもんだけど、確実にITが健康を監視し、誘導するという機能の萌芽がみえる。そして、私や他のApple Watchを好き好んで買う人の大部分がその機能を気に入っており、もっと進化してほしいと思っている(はず)。
トァン等の息苦しさの正体は徹底した健康監視だけではなく、健康管理の目的が「大災禍後の人類絶滅危機において貴重な社会リソースを守るため」と全体主義的な点、その大義の元で健康状況も含めたあらゆる行動が社会評価としてスコア化されてしまう点なども一役買っている。たしかにこのような特徴の社会については現時点の私も御免被りたい。
とはいえ健康維持にはある程度のモニタリングと介入が不可欠なので、大義名分として受け入れやすい側面がある。それを手がかりに、それ以外のこともいろいろモニタリングされる社会が築かれてしまうということはシナリオとして十分あり得るよなあと思う。
ディストピアは私たちが気づかぬ間に身近なところに浸透してくる、というぞわぞわ感を味わうことができる。そんな世界観から始まる作品である。